『大人もハマる!韓国ドラマ 推しの50本』(大月書店)

「韓国ドラマ=イケメン&恋愛」だけじゃない。彼女がブームを確信した瞬間

「韓国ドラマ=イケメン&恋愛」だけじゃない。彼女がブームを確信した瞬間

韓国ドラマと聞いて「イケメンが話題になる恋愛ものでしょ?」と思った人にも、「韓国ドラマにハマっています!」という人にもおすすめの一冊『大人もハマる!韓国ドラマ 推しの50本』(大月書店)が2021年12月に発売されました。

バラエティ豊かな韓国ドラマのラインナップの中から「大人が見る価値のある」作品をドラマ通のライター・渥美志保さんが厳選。

「涙と笑いの激アツ時代劇ドラマ」、「いまの時代のフェミニズム系ドラマ」、「100万人の号泣ドラマ」など9つの視点で50作紹介されています。
本書の「はじめに」を特別に試し読みとして掲載します。

※掲載にあたり、小見出しはウートピ編集部が独自に作成、改行位置の調整を行いました。

「韓国ドラマって、なんか…」という雰囲気に変化

『愛の不時着』以降、韓国ドラマが大ブームになっている。実は少し前までは、そんなふうに言い切っていいのか自信がなかった。私が映画やドラマについて書いているライターで、周囲には新しいエンタメに真っ先に飛びつく人ばっかりだからである。「もしかしたら私のまわりだけなんじゃないか……」なんて思ってたのだ。だが今回は、確信をもって言い切ることができそうだ。

だって、いままで「韓国ドラマって、なんか……」みたいに言葉を濁していた編集者が「チョン・ヘインくん(『D.P.』)にハマっちゃって!」なんて興奮気味に連絡してくるし、たまにインタビューする有名人からも「コロナ禍で『梨泰院クラス』を観て以来、韓国ドラマにハマっちゃって」なんて話も聞く。偏見のない若い世代だけでなく、40代以上のおじさんも観ているのだ。

ちょっと嬉しい。いやけっこう、かなり嬉しい。

私はライターの渥美志保と申します。このお仕事を始めた最初から今日に至るまで、一応「映画ライター/コラムニスト」と名乗っておりますが、最近ではウェブ女性誌『ELLEデジタル』にてコラム「推しのイケメン、ハマる韓ドラ」を好評連載中です!!という宣伝はさておき。

私が最初にハマった韓国カルチャーは映画、99年の東京国際映画祭で初公開されたアクション大作『シュリ』だ。韓国の諜報部員を主人公にしたスパイもので、スケール感のある物語と迫力のアクション、スピード感満点のハラハラドキドキの展開、分断の歴史に翻弄される切ない悲恋……など盛りだくさんの超娯楽作である。

何の根拠もなく、あらゆる点で日本映画のほうが優れているかのように思い込んでいた私は、そのレベルの高さに「すっげー!」とぶっ飛んだ。とくに度肝を抜かれたのは、俳優たちの演技力である。主演のハン・ソッキュは当時から大俳優だったが、ヒロインには後にアメリカドラマ『LOST』に出演することになるキム・ユンジン、二番手に『パラサイト 半地下の家族』のソン・ガンホ、敵役は『オールドボーイ』のチェ・ミンシクという、思えばすごいメンバーだったのだ。

「OLが金土日の2泊3日で、リーズナブルに楽しめる焼き肉とエステの国」という韓国のイメージは、この作品でガラリと変わった。隣の国なのに何も知らないんだと気づいた私は、その翌年から立ち上がったばかりの釜山国際映画祭に通いはじめた。まだ手づくり感が漂う映画祭は興奮と熱気と歓迎ムードに溢れ、毎日毎日観る韓国映画はどれもこれも面白く、食べる料理はどれも美味しく、私は韓国がどんどん好きになった。

2003年、『冬ソナ』がやってきた

その当時は、昨年オスカーを獲得したポン・ジュノ監督をはじめとする「386世代」(90年代当時30代で、80年代に大学時代を過ごした60年代生まれの監督)がすごい映画を次々作っていたころで、私は会う人会う人に「韓国映画が大好き! すごく面白い!」と宣伝しまくった。だが反応はきわめて薄かった。弾みまくるゴムまりを「イェーイ!」と陽気に投げたはずが、低反発マットに吸い込まれて沈んだままの鉄球のように、「ふーん(ていうか、韓国に興味ないし)」てな具合である。

そんな苦節の数年が過ぎた2003年、あの『冬ソナ』が日本にやってきたのだ。そもそもドラマが大好きで映画を観はじめた私は、まんまと『冬ソナ』にハマった。ヨン様演じる主人公ミニョンさんは当たりはソフトだが強さもあり魅力的で、マフラー2本使いの独特の「ミニョン巻き」を真似たりなんかもした。だが真の魅力は物語だと思う。山口百恵の「赤いシリーズ」かと思うような出生の秘密とか、実は兄妹……? とか、記憶喪失とか、絶妙なすれ違いとか、何しろストーリーテリングが抜群だったのだ。

私はその当時観られるドラマを片っ端から観はじめ、今度は「韓国ドラマが面白いんだよ!」と周囲に広報しはじめた。だがやっぱり、反応はめちゃめちゃ低反発である。さらに、あろうことか「韓国ドラマ好き=ヨン様ファンのオバサン」みたいな、ふわっと嘲笑するような雰囲気すらあった。何のデータ的裏づけもない「私調べ」で恐縮だが、こうした偏見はK─POP第二世代——Big Bang、少女時代、KARAなどに若い世代がハマりはじめるまで続いたように思う。

タイトルに「ヒョンビン」を入れれば読まれるけれど…

それ以前は、韓国カルチャーのファンはひとまとめに、ほぼ「隠れキリシタン」状態で、私のまわりには「ファンだということを周囲には隠している」という友人もけっこういた。

そんな20年を過ごしてきたからこそ、『愛の不時着』に端を発した今回のブームにも、私はちょっと懐疑的だった。つまり「ヨン様ブーム」「グンちゃんブーム(チャン・グンソク、『美男ですね』)」がそうだったように、多くの人が主演のイケメン俳優ヒョンビンの作品を掘って終わるんだろうな、そういう人たちは韓国ドラマそのもののファンにはなってくれないんだろうな、一般には広まらないんだろうな、と考えていたのだ。

韓国ドラマの連載を持った昨年の夏ごろ、ネット記事における「ヒョンビン」「愛の不時着」という言葉は「絶対的なマジックワード」みたいなもので、ヒョンビンをタイトルに冠したある記事は、文字通り桁違いのページビューを叩き出した。まあそういうことですよね……と、嬉しいんだけど複雑な思いだった。

「ええっ!?」と思ったのは、連載が半年を過ぎたころに書いた、ヒョンビンの「ヒョ」の字もない、そして「イケメン」ともまったく無関係な、地味だけどいい作品ばかりを揃えた記事である。これが夏に書いた「桁違いのヒョンビン記事」の4倍以上のページビューを記録したのだ。爆発的な超大ヒットである。

一過性のブームでなく本物だと、ある程度確信した私の次の(勝手な)使命は、「韓国ドラマ=イケメン&恋愛」の偏見から解き放つことだ。っていうかそう決めた。もちろん私だって韓国ドラマに出てくるイケメンも美女も大好きだ。でもそれと同じくらい、コメディからシリアスまで変幻自在に演じ作品を支える大人の俳優たち、個性派の脇役たちが大好きだし、何よりもドラマそのものが大好きなのだ。

人生が恋愛だけで語れないように

私の人生が恋愛だけでは語れないのと同じで、ドラマにもそれ以外に語られるべきものは無数にある。とくに韓国ドラマの作り手は本当に自由でチャレンジングで、新しい領域にガンガンと突っ込んでゆく。日本のドラマしか観てこなかった人たちの目には、ヒョンビンは「初めて見る理想の男性」に、『愛の不時着』は新しいドラマに見えるのかもしれないが、もっと知れば、もっと好みの作品に出会えると思う。

逆に、いまの日本ではあまり作られていない古典的なスタイルの作品も、まだまだ作られている(これは古いという意味ではない。スタイルは古典的だが、現代を意識した要素は常に採り入れられているからだ)。『ヴィンチェンツォ』『イカゲーム』『D.P.』『海街チャチャチャ』『賢い医師生活』『キングダム』などの面白いドラマは、そういう中でこそ生まれたのだと思う。

でも、あまりにバラエティに富み本数が多いので、正直どこから手をつけていいかよくわからない人も多いだろう。この本はそんな人に向けて、私が独断と偏見で選んだ50本の韓国ドラマをおすすめしている本だ。すべての韓国ドラマを観られているわけではないし、詳しい方にはきっと異論もあるかもしれない。

『愛の不時着』も『宮廷女官チャングムの誓い』も『トッケビ〜君がくれた愛しい日々』も『太陽の末裔』も入っていない。そのあたりのドメジャー作品は私以外の人におまかせして、少なくとも私が自信をもっておすすめする作品である。作品紹介にはできる限り、自分が学んだ韓国の文化や情報も入れたつもりだ。そうした背景がわかると、作品はきっともっと立体的に見えてくるし、もっと面白くなると思う。お隣の国である韓国そのものを知り、好きになってくれたらいいなという思いもある。

充実の韓国ドラマライフを

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『大人もハマる!韓国ドラマ 推しの50本』(大月書店)好評発売中。256ページ、1760円(税込)

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